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August 17, 2005

隣の二人

隣の二人

山から下りて先ず目に入ったのは、すし屋が出している生ビールの看板だが、すしや刺身を進められてもとても食べる気にはならないからここは敬遠。

隣の喫茶店に入り“この辺に風呂屋はありますか?”“いえ、ここにはありませんよ” “お宅では生ビールを置いてませんか?” “ありません”

1区画を回って次に目に入ったのが、うどんと生ビールの看板。

入ると7-8人が座れる程のカウンターがある小さな店だが、汗だくでも快く向かえてくれた。 頼んだ生ビール一気に入ってしまう。 一息入れて良く見るとここはなんとなく居酒屋ではないか。 ママは70歳をとっくに越しているが、昔は美人であったに違いない。 大阪、京都で水商売をやっていたようだ。

酒はK菱でないとダメ、他は味が薄くて飲めないそうだ。

生を2杯そして芋焼酎のロックを頼んだ所に高齢の二人連れが入って来て隣にる。 

一人は茶(やけに日焼けしている)でもう一人は白(日光に当って居ないように色白で無精ひげも白い)で、いずれも60歳以上、70歳近辺。

“ご主人、邪魔しますよ” 私はどうぞ、どうぞと歓迎の意を顔で表す。

それで御互いに少し飲んでいると、二人の内の茶が“このママさんは美人や”

そうだ、美人だと相槌を打つ。

“ご主人、ワイらは都島を出てきましてん” 

“ハーそうですか、私も都島に住んでいますよ” 

“いや、ワイらは都島を出てきましてん 

“出てきた? はー、まさか拘置所ですか?” 

“ん” 

そして茶が、“今度ここへ来たら、ここから三つ山を越えて源氏の滝へ行ったらええで”

とさかんに薦めるので、

“源氏の滝の名前は知っているから、今度行って見るよ”と答えた。

その内にぶつぶつ何か言ってる白のほうが酒の入ったコップを倒した。 それを期に茶がほなぁ、帰るわ”といってママに二人別々に勘定を払った。 そして茶が白に

“車を持ってくるから少しまっときや それで私は思わず

“おっちゃん、酒飲んで車運転したらあかんで” 

“いやー、大丈夫や、直ぐやさかい” 

ふっと外を見るとパトカーの姿が見えたので引き戸を開けると5m程の所にパトカーが止まっている。更に30m程東で警官が3-4人と盛んに話している。 事故だな。 

“おっちゃん、今そこで事故が有ったようで警官が3-4人おるわ。 これで車運転したら、あかんやん” 

“そうか、ちょっと見てくるわ” そういって出て行ったが中々帰って来ない。 

白は相変わらずブツブツ独り言を言ってる。 それで気になって外へ出てみると事故現場らしき方向から茶が歩いてくる。 その時始めて知ったが茶は足が悪いようで両方の足が“くの字”型に曲がっている。 そして白に“もうちょっとまっとれ”と言って再び出て行く。 それで又中々帰って来ない。

ママは店を閉める体勢に入ってる。 仕方なく白に外で待っていようと声を掛けると漸く立ち上がる。 が、彼もまともに歩けないので肩を支えて戸口に送る、そして彼は戸口で立ち止まり動かない。 ママが外へ押しても動かない。 で私は再び彼の肩を支え茶が行った方向へ歩き出す。 事故があったらしい場所にはもう誰も居なくなり、その横で少し通りから引っ込んでいる金網の柵に彼の体を預ける。 そして

“いいですか、友達が来るまでここを動いたらあきまへんよ” そう言うと

“あんさんは、いい人でんな。 名前はなんと言いなさる? ワイはk林でんねん” 

“じゃー、k林さん、ここを動いたらあきまへんで” 

“ワイは刺青がありまんねん” 

“へー、じゃ見せて貰えますか”と、言うとk林さんは左のシャツを中ほどまでたくし揚げたが急に気が変わりシャツを元へ戻すから良く見えなかったが、多分刺青を消そうとしたような跡が目に残った。

店に帰るとママが“ご苦労はん” と言ったので“あそこに置いて来たがちょっと心配ですね。 お客さんでしょう?” そう言うとママは“いえー、家の客ではありまへん。もうほっといてええから早くお帰り”

まー、山から降りた直後の一時間で生ビールを二杯と芋焼酎のロックを飲んだから酔っていたなー。

でも俺は何をしてたんだろうなー。

あの二人は一体何物なのだろう。

そう言えば、あの二人は目が全然笑っていなかったなー。

あのママは昔は美人だったろうなー、しかしエゲツナイこともいってたなー。

気になりながら電車に乗るともう忘れてしまった。

でも京橋に来るともう一度飲み直しをした。

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Comments

刑務所を出所して来たらしい二人の胡散臭い男たちとの出会い、わけありげな飲み屋のおかみ、警察におびえる刺青男ーー芝居の一こまが目に浮かぶ表現と舞台展開が面白い。
computorの達人から、今度は作家で飯が食えるかも。試しに山岳系のスリラー小説にトライされては如何でしょう?続編を楽しみにしています。

Posted by: 自然星 | August 19, 2005 06:22 PM

自然星さん
久し振りです。 お元気ですか?
実は2-3書いている物があるのですが、途轍もなく話が大きくなり手に負えい状態なのです。

Posted by: shima | August 19, 2005 10:12 PM

shima様 自然星さんと同じ感想です。
会話の大阪弁といい、場面といい、
面白い短編小説ですね。続編が楽しみ!

Posted by: nekozizou | August 20, 2005 02:56 PM

nekozizouさん
私は大阪弁が全くダメなので大阪弁だけを友達に頼んで添削をしてもらいました。
これはエッセイで実際の出来事です!
短編小説はーーー、考えてみます。

Posted by: shima | August 24, 2005 12:34 PM

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